33年前から、自分の人生を振り返れるとしたら。
「あの日の自分に伝えたいことがある」
そうして私は、自分が最も辛かったあの瞬間に行って、自分を励まそうと思った。
けれどその時の自分には言葉は到底届かず、せめてもの思いで、ある曲をひとつ届けた。
あの頃の自分と、ひとつの曲。
その関係性は、年を重ねるごとに変わっていく。
ハタチの私、33歳の私。
全時代の自分に問う。
「あの曲は今、どう聴こえますか?」
■開催日程
9月10日(木) 19:00~恵比寿天窓.switch
9月11日(金) 14:30~吉祥寺NEPO
9月11日(金) 19:00~吉祥寺NEPO
■作・演出:渡部かをり
■出演:詩央里 / NARUTRIO(白石なる / 小林真也 / 渡部かをり)
■チケット料金
ライブ観覧:¥3,000(原作小説付き)+1order
実際のチケット発送は9月1日より開始いたします。
※各会場とも、感染拡大の防止にご協力をお願いいたします。
※個人の事情によりライブ観覧から配信観覧へ切り替えたいという場合、同チケットでご覧いただけるように対応いたしますが、差額の返金はいたしかねます。予めご了承くださいませ。
ライブ配信:¥2,500(原作小説データ付き)
※配信チケットは8月中旬に販売開始予定です。
別途ツイキャスアカウントでの販売となります
クラウドファンディングのリターンに「ライブチケット」を含む支援者様
事前にお送りしている「ライブ参加希望アンケート」を送信くださいませ(〆切8月15日)
詳細はアンケートよりご確認をお願いいたします。
ライブチケット1枚につき、1公演のライブ観覧or配信観覧が可能です。
結果だけ見ると、とても苦しい日々だった。
自分で選んだ仕事、大事にしたい友達、巡り合えた自分の家族。全て愛すべきもので、全て連れていくつもりだった。大切なものに囲まれた、絵に描いたような幸せ。どれも自分には必要だと思っていたし、そのひとつひとつに順番をつけられるわけもなく、欲張って全部抱えてきた。
......そしてあっという間にあふれた。
みどく。未読。既読。返せないLINEが溜まっていく。何も、やりきれない。全部、できていない。自分が選んで抱えたものは、いつの間にか自分の腕からとっくに溢れていたのだった。
こぼれ落ちた、やりたかった仕事。大切にしたかった友達。尽くしたかった家族。ここにいるのは、何もできていない自分。このパズルには幸せなピースしかなかったのに、私が間違えて完成させてしまったのだ。いびつな絵柄を描くそのパズルが、私を恨めしそうに見つめている。
「こんなはずじゃなかった」
そう気づいた時には、もう自分は自分の人生にお手上げだった。人混み、話し声、満員の電車。慣れ親しんだはずの東京が、ひどくわずらわしい。私は喧騒から逃げるような気持ちでホームに降り立った。
車窓には、青々とした田園風景が広がり始める。ため息をひとつ吐いて、スマホの電源を入れた。
「大丈夫?無理せずね」
同僚からのメッセージが届く。電源を切る直前に、職場にはぎりぎりの理性で病欠の旨を伝えていた。大丈夫?と聞かれたら大丈夫と答えるほかないじゃないか。そんなことを考えてしまう自分の半端な理性も屁理屈も好きじゃない。また大きくため息をついた。
待ち受け画面に映し出される5 月31 日の文字。今日私は33歳になる。誕生日が大して特別な日ではなくなってしまったのはいつからだろう。そんなことを考えながら、およそ無意識に「33」と打ち込んだ。様々な検索結果が画面に表示される。奇数、回文数、占いサイト、しし座流星群の周期、住所......その中でひとつ気になったものがあった。『地球33番地』
“高知県高知市南金田・弥生町にある、旧日本測地系による東経133 度33 分33.333 秒・北緯33度33分33.333秒の地点を示す愛称である“
決まってしまえば大人の行動は早い。15時には地球33番地に到着した。
住宅街を流れる川に、ぽっと記念モニュメントが立っている。それ以外に何か目立つものがある観光地ではなかった。大きな感動もなければ、落胆するわけでもない。喧騒から 逃げてきたのだから、このくらいがちょうど良かった。
しかし周辺をゆっくり歩いていると、したくもない考え事をしてしまう。東京に置いてきた、仕事、友達、家族、そして自分自身。
現実に戻らなければと何度もパズルをやり直しては、なぜこんなに複雑なのかと嘆いている。手詰まりになるとわかりながら難易度を上げてしまうのは、理想の自分が「まだいけるよ!こんなもんじゃないでしょ?」って言葉をかけてくるから。そうやって自分で選んでしまった手前、弱音を吐くにも気が引ける。そして心に溜まりきった弱音は、行くあてもなく腐っていく。自業自得、わかっている。自問自答、答えなどない。
そんな終わりのない思考を繰り返している間に、時計の針はおかまいなしに時を刻んだ。
ひと気がなくなり、町が静かに眠りにつく。歩き回っていた足は、気づけば棒のように突っ張っている。もうここに来てから12 時間以上経ってしまった。ひとめぐりした時計をみて、あらためて地球33番地と書かれたモニュメントの真下に立ってみた。時刻は深夜3時33分3333秒。目の前がぐらっと揺らぐような感覚と共に鮮烈な光を感じ、目を瞑った。
結果だけ見ると、とても苦しい日々だった。
大好きな彼、共有したたくさんの思い出、もう二度とないと信じた恋。全て愛すべきもので、全て連れていくつもりだった。大切なものに囲まれた、絵に描いたような幸せ。どれ も自分には必要だと思っていたし、そのひとつひとつは美しくあざやかに私の思いを彩っていた。
......そしてあっという間にフラれた。
メールの返事はぱったり来なくなった。何も、手につかない。全部、どうでもいい。信じてきたものが全て崩れていった。別れる理由なんてごくありきたりなもので、理解することも簡単だった。ただし、それを消化できるかは別の問題だ。
姿を見ることも嫌になった彼、どこまでもついてくる思い出、容易く壊れた恋。ここにいるのは、何もできない自分。きっと後々の人生では„ハタチの私の大失恋„など、笑ってしまうような出来事になるのだろう。それも十分わかっている。分かった上で、ただただ何も考えられない時間が過ぎていく。
「こんなはずじゃなかった」
そう吐き出せた時にはもう、自分は自分の人生にお手上げだった。無気力、何もしたくない。お腹も空かないし、眠くもならない。目を瞑ると嫌なことばかりを思い出してしまう。眠れぬ夜は長く、朝はとにかく遠い。そして昨日の重りを引きずったまま、また1日が始まる。
ひとり部屋に閉じこもり、私は喧騒から逃げるようにしてイヤホンを耳に差し込む。けれど慣れ親しんだはずの音楽が、ひどくわずらわしい。どんな言葉を聴いても、その全てはただただ心を通り過ぎるだけ。やむなくipodの停止ボタンを押すと、今度は無音の夜がおとずれる。時刻は深夜3時33分33秒。鬱々とした夜は今日も長いし、朝はとにかく遠い。
気づくと、私は部屋の中にいた。地球33番地はどこへ行ってしまったのか、これが夢だとしたらどこからが夢だったのか。把握できることがあるとしたら、私が今対峙しているのは„私自身„と言うことくらいだった。
概念的なことではなく、今目の前に私がいる。六畳一間。私が初めて一人暮らしをした部屋だった。勝手知ったるかつての我が家。
「おかえり」
呼びかけられた。
「た、ただいま」
内心、なんでこいつはこんなに落ち着いているんだ!と慌てふためいていたものの、おそらく年上だろう自分のプライドが勝って、ぎりぎり答えることができた。
「なんでここに来たの」
「伝えたいことがあって」
とっさに出た言葉。だってほら、漫画とかでは未来から自分がやってくる時って大体伝言があるものだし。
「もしかしてさ、今つらいんじゃない......?」
適当なことを言ってみたら、思わぬ答えが返ってきた。
「うん、生きてる意味がわからない」
なるほど......あの頃か。ある程度、状況を察することができた。
「そうなんだよ、この先の人生から考えても„今„がトップ3に入るくらいつらいんだよ!でも安心してよ、明るい未来が待ってるからさ!つらいのも今だけ。時間が解決してくれるし......」
話しながら自分に興醒めした。いくらなんでも、激励の言葉が酷すぎる。あの頃を思い出せば、こんな言葉を並べてもなんの意味も成さないことくらい、自分が一番わかっている。
気づけば、向かい合っている方の私が静かに泣いていた。
「大丈夫?無理せず......」
尻すぼみになる言葉。大丈夫?と聞かれたら大丈夫と答えるほかないと、12時間前の私が叫んでいる。何を言っても裏目にしかならず、とにかく無力だった。俯いてしまった私に、かける言葉はもうない。
何か今の私にできることはないだろうか......そして考えた結果、私はスマホを取り出して、自分のスマホにハタチの私のイヤホンを挿し込んだ。ハタチの私に聴いてほしい曲がある。これだけは届いてくれと、祈る気持ちで再生ボタンを押した。
クラウドファンディング終了まであと
クラウドファンディングは112%目標達成という結果と共に、7月30日に終了いたしました。
ご支援いただいた皆様、応援し見守ってくださった皆様、心よりお礼申し上げます。
現在は9月のリターン履行に向けて準備を進めております。
そのほか、これまでの様子やこれからの活動報告などクラウドファンディングページよりご覧いただけます。
たくさんのご支援、誠にありがとうございました!
渡部かをり
公演日時:2020年08月23日(日) 19:00開始(およそ1時間予定) ※ 本公演はツイキャスプレミア配信にて配信ライブを視聴していただく形となっております。
料金:¥1,500
出演:詩央里 / NARUTRIO
やりたかったことが、いつからかやらなければいけないことになっていた。
抱えすぎた作業に追われる最中、眠ってしまった私がいたのは”私が帰りたかった場所”。
「夢の中くらい、好きなことしようよ」
呼び掛けられた言葉に思う。
ーー私がやりたかったことって何だっけ……?
——
なんでもない日常が、言葉と生演奏によって”鮮やかに”描かれる配信ライブ。5/31に開催予定だった企画にもつながる物語を、ぜひご覧ください。